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金沢地方裁判所 昭和28年(行)3号 判決

原告 中田太賀

被告 小松市若杉地区農業委員会 外一名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告小松市若杉地区農業委員会(当時小松市至誠地区農地委員会と称する)が昭和二十三年一月八日なした同市佐々木町イ二百二番地の二宅地八十九坪に対する買収並びに売渡計画は無効であることを確認する、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求めその請求原因として、

一、小松市佐々木町イ二百二番地の二宅地八十九坪は原告の先代中田太助と訴外山下次郎七の共有であつたが、原告の先代は昭和九年十月十四日、訴外山下次郎七は同十五年七月十二日に夫々死亡しそのため原告及び山下正男が夫々家督相続をして今日に至つている。

二、ところが被告小松市若杉地区農業委員会の前身である当時の同市至誠地区農地委員会は被告山崎清義の申請により、同二十三年一月八日本件宅地を自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号の規定に基き買収並びに売渡計画を樹てた上、同年二月二日右宅地を買収しこれを右被告山崎に売渡し、同被告のため同二十五年三月三十日金沢地方法務局小松支局受付第四一三四号を以て同法第二十九条第二項の規定による売渡を原因とする所有権移転登記手続がなされた。

三、然し右買収並びに売渡計画は次にのべるような理由により無効であるといわなければならない。

即ち前述のとおり本件宅地は原告の先代訴外亡中田太助及び訴外山下正男の先代訴外亡山下次郎七とが共有していた。ところで原告の先代は右宅地上に現在あるところの家屋(建坪十八坪五合七勺)を所有していたが、これを数十年前被告山崎の祖父訴外山崎徳松に売渡し右山崎は該家屋を買受けると同時に本件宅地を期間の定めなく賃借した。而して同人は同十三年五月二十五日死亡したので被告山崎の父訴外山崎清右エ門がその地位を承継して賃借人となり、原告の先代も亦死亡したので原告が本件宅地の賃貸人の地位を承継したものである。

(一)  そうすると本件宅地は訴外山下正男と原告との共有であつたにも拘らず、これを原告の単独所有としてその買収並びに売渡計画を進めたのであるから右計画は無効である。

(二)  被告山崎は本件宅地につき賃借権を有しておらないのに、被告委員会が被告山崎を本件宅地の賃借人であると誤認して同法第十五条第一項第二号に該当するとして本件宅地の買収並びに売渡計画を樹てたもので、右は明らかに同号に違反し無効である。

四、以上の事由により被告委員会の前身である小松市至誠地区農地委員会のなした本件宅地に対する買収並びに売渡計画は無効であるから、本訴においてその無効の確認を求めるものである。

とのべた(立証省略)。

被告等訴訟代理人は本案前の抗弁として、原告の主張するような理由はいづれも右買収並びに売渡計画の取消原因とするならば兎も角、到底無効原因として主張できるものではない。従つて原告の本件訴は出訴期間を経過し不適法であるから却下を免れないものであるとのべ、本案に対する答弁として主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因に対する答弁として、

一、に対し本件宅地は訴外山下正男と共有するものではなく、買収当時登記簿上共有になつていたものにすぎない。即ち、小松市佐々木町イ二百二番地の宅地(百九十二坪)は登記簿上共有となつているが、事実上は四十数年前より右山下はうち百三坪、原告はうち八十九坪に区分されて各自の単独所有となり、各所有地は特定され両地の境界も判然としておつたもので、右原告の所有地上に被告山崎の祖父訴外山崎徳松が原告の先代より買受けた家屋があつたのである。買収売渡后は登記簿上も右山下の所有地を同番地の一(宅地百三坪)、被告山崎の買受地を同番地の二(同八十九坪)、(本件宅地)として分筆された。

二、の事実は認める。

三、に対し、原告先代が本件宅地上に現在あるところの家屋を所有していたが、これを数十年前被告の祖父訴外山崎徳松に売渡し右山崎は該家屋を買受けると同時に本件宅地を賃借したこと、同人は原告主張の頃死亡したため被告の父訴外山崎清右エ門がその地位を承継したことは認める。

ところで被告山崎は訴外山崎清右エ門の長男であるが、早くより母と死別し祖父である訴外山崎徳松に引取られ、同人と同人所有の本件宅地上の家屋に居住していたが、同人は右家屋を被告山崎に贈与する旨かねてよりいつていたので、同人の死亡により右家屋の所有権並びにその敷地である本件宅地の賃借権を相続した訴外山崎清右エ門はその遺志を尊重し、被告山崎に同二十一年頃右家屋を贈与したが右家屋が未登記であつたので登記手続はなされなかつた。そして右家屋の贈与に伴い本件宅地の賃借権も譲渡したのでその頃その旨を訴外山崎清右エ門より原告に通知しその承諾を求めたところ、原告は右について何等の異議も述べず暗黙にこれを承諾したものである。そうすると本件宅地に対する買収並びに売渡計画を樹てる当時被告山崎がその適法な賃借人であり、従つて被告山崎に対して被告委員会がなした本件行政処分は適法妥当であつて何等無効のものではない。

尚農地の買収についてはその登記簿上の所有名義等の記載に拘わることなく実際の事実に即してなすべきであり本件宅地の所有者を原告と認めてなした本件処分は違法ではない。

とのべた(立証省略)。

三、理  由

一、被告等の主張する本案前の抗弁について考えてみるに、

凡そ行政処分に内在する瑕疵が当該行政行為の無効原因となるか取消の原因となるかの判断の標準について公法上何等の規定がないが、その瑕疵が重大な場合は無効原因であると解するを相当とすべく瑕疵が重大であるかどうかの判断は結局具体的事案にそくしてするの外はない。

本件宅地(小松市佐々木町イ二百二番地の二)が原告と訴外山下正男との共有であるのにこれを原告の単独所有として買収並びに売渡計画を樹てたのは無効であると主張するから、かゝる事由が無効原因になるかどうかを案ずるに、本件宅地が原告と訴外山下の共有関係にありながら、これを原告の単独所有として扱われるならば他の共有者である訴外山下の共有持分権は不法に侵害される虞が十分にあるから、かゝる共有者の利益を無視した買収手続上の瑕疵は甚だ重大であつて無効の原因と解するを相当とする。又原告の他の無効原因であると主張するところの被告山崎が本件宅地について賃借権者でないのに自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号によりこれを買収したということも同条第一項第二号に基いて買収しようとするとき賃借権の存在することを要件の一つとしているのであるから、右要件を欠くにも拘らず同号によつて買収することは重大な瑕疵を伴うものと解すべく、そうなれば右の事由も無効の原因といつてよい。

そうなれば被告等の右の各原因は無効の原因ではなく取消の原因であるとの本案前の抗弁は理由がない。

二、そこで本案に入つて判断すると、

(一)  原告先代訴外中田太助は小松市佐々木町イ二百二番地に家屋一棟(建坪十八坪五合七勺)を所有していたが、右家屋を数十年前被告山崎の祖父訴外山崎徳松に売渡しそれと同時に同人は原告より本件宅地を賃借したこと、その後右賃貸借は原告と被告山崎の父訴外山崎清右エ門に承継されたこと、被告小松市若杉地区農業委員会の前身である同市至誠地区農地委員会が被告山崎の申請により、昭和二十三年一月八日本件宅地を同法第十五条第一項第二号の規定に基き買収並びに売渡計画を樹てた上、同年二月二日右宅地を買収して被告山崎に売渡し同被告のため、同二十五年三月三十日金沢地方法務局小松支局受付第四一三四号を以てその旨所有権移転登記手続を経たことについては当事者間に争がない。

(二)  証人黒本定吉、同西出久四郎、同山崎清右エ門及び同山下正男の各証言並びに本件宅地の検証の結果を綜合すると、本件宅地である小松市佐々木町イ二百二番地は同二十四年十月十日付を以て同番地の一及び二として二筆に分筆登記されるまでは一筆の宅地として原告及び訴外山下次郎七の共有となつていたが、明治年間中当時の共有者である原告の先代中田太助と訴外東出太平間に共有地の分割が行われ右太助はそのうち八十九坪、訴外山下の前所有者東出太平が残り百三坪を夫々単独に所有することになりその境界も樹木を植えて明確にしその各地上に各々の家屋を所有していたこと、右東出の所有していた土地家屋を右訴外山下次郎七が買受けその后訴外山下正男が相続し、原告先代訴外中田太助の所有する家屋を被告山崎の祖父訴外山崎徳松が買受けたこと、右山崎は該家屋に隠居したが被告山崎の実母が被告山崎の幼少のとき死去したのでこれを引取り養育した関係上、被告山崎の父訴外山崎清右エ門に同人所有の本件宅地上の家屋を被告山崎に贈与するよう依頼したこと、その后右山崎徳松は同十三年に死亡したので右家屋並びに同家屋の敷地である本件宅地の賃借権を承継した右訴外山崎清右エ門は右山崎徳松の遺志を尊重して右家屋を将来被告山崎に贈与しようと考えていたが、同二十年八月頃被告山崎が復員してきて右家屋に居住し原告等所有の田約十五畝及び右山崎清右エ門所有の田三反五畝を借受けてこれを小作して農業を始めたのを機会に、その頃本件家屋を被告山崎に贈与し同年中その旨を原告に通知して本件家屋の敷地の賃借権譲渡の承認を求めたこと、及び右通知に対し原告は何等これに対し異議を述べず暗黙にこれを承諾したことが認められ、原告本人訊問の結果のうち右認定に反する部分は措信しないしその他に右認定を左右にする証拠はない。

(三)  叙上認定の事実関係よりすると、本件宅地は既に分割されて原告の単独所有となり、その上にある家屋を被告山崎は贈与を受けると同時に敷地の賃借権の譲渡をうけたので、被告委員会は本件宅地の単独所有者である原告に対し被告山崎を適法の賃借権者として同法第十五条第一項第二号に基き買収並びに売渡計画手続をしたものであつて、右被告委員会の買収並びに売渡計画には原告の主張するような瑕疵はない。

三、以上のとおりであるから原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 観田七郎 柏木賢吉 古崎慶長)

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